むめい

音楽、映画、小説、スポーツ、ノルウェーのこと、とか。

27 エスプレッソレモネードと苦手の更新。

 昔、エスプレッソーダという商品があった。

覚えている方いらっしゃるだろうか。すぐに店頭から消えてしまったと記憶しているので、あまり記憶にないという方のほうが多いかもしれない。

というのも、ネット記事で取り上げられるくらい不味かったのだ。

『エスプレッソーダ』を飲むべき理由は「味」ではないという結論 | ライフハッカー[日本版]

この商品が売り出されたとき、私は15歳くらい。丁度コーヒーをブラックで飲みだすようになり、もうコーヒー牛乳から卒業せんとするときであった。15歳という年齢で人間は結構背伸びをする。好きになれないマキシマムザホルモン無理やり聞いたりしてた。

そんな年齢の中学生は、エスプレッソーダを当然口にする。当時いきものがかりスピッツが好きだったのに頑張ってハードロックを聞いたように。

味の感想としては、最悪だった。

多分これまで飲んだ市販の飲料の中で一番不味かったと今でも断言できる。

飲んだ瞬間、身体が受け付けずそのまま吐いてしまった。

ベースにあるコーヒーの苦みが炭酸水の苦みと重なってエグみに昇華していたが、その苦みを打ち消すために甘味を足していたので、もう味の構成がめちゃくちゃだった。イコライザーの設定全部上にあげたみたいな感じ。

上記のネット記事でも言及されているが、無糖ならまだ飲めたと思う。変に甘いのが最悪だった。かくしてエスプレッソーダはトラウマ級の記憶になった。

松本人志が過去の著作で語っていたが、最高の映画と同じくらい最悪の映画は記憶に残る。

 

トラウマの乗り越え方(必ず乗り越えればいいということでもないと思うが)として私がしてきたのは、過去の更新。失恋の更新は新しい恋で埋めるみたいなことだろうか。そこができて初めて過去が受容できる。(私は)

それゆえ、私はエスプレッソーダ(コーヒーショップではエスプレッソトニックということが多い)を目にすると口にしてきた。いくつかのコーヒーショップで飲んだエスプレッソトニックはどれも不快でなく、むしろ好きな部類であった。

それなりの経験値を積んで、エスプレッソ+ソーダに恐怖をそこまで覚えなくなったころ、自宅近くのカフェでエスプレッソレモネードの文字を目にした。

エスプレッソとレモネードは苦みと甘みが正面衝突しそうだ。レモネードにはほのかな苦みもあるし、苦みが加速しそうだ。躊躇う私に店主はおすすめと言う。

逃げちゃダメだ精神に支えられ、エスプレッソレモネードを頼んだ。

エスプレッソが沈殿しているから飲むときには混ぜてねなんて言われて。

飲んだ瞬間、身体が受け付けていた。むしろ好きな味であった。エスプレッソの苦みが爽やかな苦みとして加算されており、甘みもくどくなかった。

 

 

タランティーノの映画を全部見た友人がいる。どうしても好きになれなかったから、という理由で結局全部見たらしい。友人も、そんなに好きになれなかったタランティーノを更新するために見続けた。

私も村上春樹が初めて読んだ1Q84が苦手だったが、辞めずに読むと初期作は好きだった。まだ全部読んでいないけど。

でも、頑張れるくらいの最低な記憶じゃないと頑張りたくない。浪人とか二度としたくないし。