むめい

音楽、映画、小説、スポーツ、ノルウェーのこと、とか。

25『THE THIRD SUMMER OF LOVE』そして、最後に救われる。

 ラブリーサマーちゃんの3枚目のアルバムが9月16日にリリースされた。お恥ずかしながら今年まで名前も知らなかったし、名前で少し敬遠する気持ちもあった。

でも、ラブサマちゃんの先行シングルはそんな私に大きく揺さぶりをかけた。

「I Told You A Lie」も「どうしたいの?」も「AH!」も際立っていた。

こんなしっかりしたギターとドラムを響かせながらポップのセンスも抜群な歌手がいることに素直に感銘を受けた。ガンダム00ブリリアントグリーンを聞いて以来の高揚感だった。(実際影響があるとのことです)

そこから過去2枚のアルバムを聞き、粛々と新作を待っていた。

過去作を聞いた私の印象としてのラブサマちゃんは、繊細なソングライティングとユーモアさ。

1枚目の『LSC』では、「202」でちょっと私には重すぎるくらいの切なさを与えてから、「私の好きなもの」で爆笑させてくれた。この曲、「パンケーキ食べたい」に近いですよね、しかもアイドルカルチャーへのオマージュもあって最高。

2枚目でもその雰囲気は継承されていて、メロー、疾走感、ユーモアの配分は守られつつも、「おやすみ」にみられるようなボサノヴァなど、その幅広さに驚かされた。

そのユーモアが顕著に表れているのは最後の曲であると言っていい。『LSC』でもみられたこの最終曲のユーモアは大変に興味深いが、2枚目最後の曲である「My Sweet Chocolate Baby!!」ではもっと「悪質」になっており、かなり長い時間無音なのである。このサブスク時代に信じられないやり方だけど、この曲のモキュメンタリ―性は素晴らしいし、本当に馬鹿らしくて最高。この世界から救われる気持ちがする。なんだかSuperorganismとの親和性を感じる。

前置きが長くなった。では、『THE THIRD SUMMER OF LOVE』はどうだろうか。

感想を短く述べると、前作よりも更に硬質に、繊細になった感じがある。ラブサマちゃんの持つアイドル的な作風はかなり息を潜め、ギターで勝負すると言わんばかりの一作になっている。

ありきたりな言葉を誤解ありきで使うならこの作品は「強い」と感じられるだろう。

特に「どうしたいの?」は歌詞を読みながら聞いていると息が詰まる思いがある。ラブサマちゃんの覚悟が感じられる一曲。なぜなら、Twitterでラブサマちゃんを見ていると、いつも強い!みたいな人ではないのかな?と思うから。

ラブサマちゃんはバカみたいなインタビューを沢山受けて疲弊していた。でも、そこから対話を重ねてその世界と共存する姿勢も見せてくれた。

その姿勢は今作を貫いているのではないのかな?とも想像できる。「AH!」では疾走感のなかに「斜に構えた」気持ちを覗かせるし、「心ない人」では結局想う人を嫌いになれきれない弱さを見せる。

しかしながら、「豆台風」「LSC2000」で転換を迎える。これまでの作品の主役は、パッシヴに傷ついていたけど、このあたりから傷ついたうえで世界と自分の距離感をすこしずつ掴み始める。「ミレニアム」では、世界への希望を見出す。「アトレーユ」で怖さとも折り合いをつける。

が、「サンタクロースにお願い」で少し弱気になってしまう。そこから、「どうしたいの?」という強烈な自己批判とも思えるような曲がくるので、奮い立たせているのかな?と邪推してしまうくらい。

その劇薬の甲斐あってか(?)、「ヒーローズをうたって」で辛かったけど、Heroes(ボウイのかな)に救われた気持ちを素直に歌う。弱さと向き合う本当の強さを手に入れたかのよう。こういうのに本当に弱いので、ストレートに響いてしまった。

そして、最後の曲。前回よりも「さらに悪質」な最終曲。

この曲があることで、ラブサマちゃんのユーモアセンスが生きていることを再認識させられる。色々辛いことがあり、その上で少しだけ強くなった物語。そのラストはそんな風に感傷にひたる奴らを少しだけからかってくれる。どう?これが正解でした!と言わんがばかりの20:20。2020なのはもちろん計算であろうが、この2020年というあまりに退屈で、感傷的な1年にラブサマちゃんは向き合いながら最後に笑い飛ばす。そんなちょっぴり上から目線の1曲に結局私は救われたのである。