むめい

音楽、映画、小説、スポーツ、ノルウェーのこと、とか。

20 bon iverのライブに行ってきた。それは私と「私」の対話。

 これまでに参加してきたライブがとりわけに多いわけではないけれど、昨日のbon iverのライブは人生の中で最高といっても良いものだった。bon iverを知ったのは2年前。Woodsを友達から教えてもらった。確かJames Blakeを知ったくらいの時期で、それきっかけで教えてもらったと記憶してる。なにものにも形容しがたい神聖で、繊細でな響き。現代的な聖歌と感じた。

 bon iverが来日するのは知っていたし、絶対行きたいと思っていたけど、今住んでいる地域での公演はなく、東京のみ。今回はちょっと無理かも、と思っていた。

 しかし、1月10日のpoplifeを聴いて、どうにもならない気持ちになった。今行かなかったらどうなる?と思ったし、チケットがまだあるなら行くしかないと決意。21日のスタンディングは当時まだあり、即購入。行った後悔の方が行かない後悔より100倍マシと言い聞かせ(後に正解と分かる)、不思議な高揚感に乗せられていた。

 当日。馬鹿すぎてチケットがないことを新幹線で気づく。動悸が止まらず、車内をぐるぐる歩き回った。チケットサイトには電話が繋がらず、Livenationには電話番号がない。完全に終わったと絶望していたが、最後の希望である、zeppにかけてみることに。あくまでハコだし無理かもしれないと思っていたし、新幹線を降りてJRに向かう途中だった(混乱しすぎて新幹線を降りてしまっていた。これも馬鹿)。しかし、なんとかなった。スタッフの方々のご厚意に本当に感謝しています。今後は当日にしか発券しませんし、できるだけ電子チケットにします。本当に、本当に、ありがとうございます。

 こんなこと言うとなにいってんだ、と言われるけど、圧倒的な絶望の中から希望がみえた、ということにbon iverを感じました。

 東京に着く。なんとかライブに入れていただき、ドリンクを買う。この時点でかなりの数の観客。キャパ一杯だろうなと思いを巡らせていた。プロのアーティストっぽい方もいましたし、日本語話者ではない人も相当数いました。

 ドリンクの長い列を終え、18時50分頃に会場入りできた。19時開演ということは実質19時10分開演だろうなと思いながらbgmを聴いていた。

 19時。時間ぴったりにジャスティンはじめメンバーが来て、一曲目を開始。勿論、1時間遅れ、みたいなことはないと思っていたけど、ぴったりに始まるとも思っていなかった。彼らの人柄というか、姿勢みたいなものがこういうものから読み取れる気がした。

 YiからiMiの壮大さに驚く。音源でかなりの効果がある楽曲だけど、生で聴いたらどうなんだろう?と邪推していたけど、この時点でそういう無駄な不安は消し飛んで、その圧倒的な音にただ、ただ、聴いていた。

 666から715の流れも素晴らしかった。715のイントロの瞬間が一番湧いていた気もする。三枚目、四枚目の重厚かつ繊細なサウンドをここまで体験できると思っていなかった。全身でその衝撃波を感じられる幸せ。Uも良かったな。

 Perth~Hey,Maの一連も印象深い。Perthはドラムがマーチっぽくて、それはともすれば軍隊的な恐ろしい響きなんだけど、私個人のフィーリングとしては、大きな自然にある春の訪れに近い(多くの人が感じているかな)。Salemはインプロっぽいフレーズが爆発してて、ジャズ的な興奮を与えてくれた。そして、Hey,Maで一転静かなスタートを迎える。この絶妙なバランス。

 Skinny Loveはジャスティンひとりの歌唱。絶唱という表現をしていた方がいたが、まさにそうであった。Naeemは今朝夜行バスから帰ってくるときに聴き直したら歌詞が入りこみすぎて、ダメでした。アンコールでのBlood Bankはかなりロック感が前面に出ていた印象。そして、ラストのRABiで静かに終わっていった。

 ここからは雑感。

 bon iverはともすれば「静」に思えるアーティストで、それは繊細とかfragileといった言葉で表されるところであったり、ジャスティンの美しい高音にあるのかもしれないけれど、この公演ではかなり身体的な響き、例えばツインドラムにみられる強い衝撃、重い機械音も感じられる。しかしながら、その両者が完璧な配分で共存しており、繊細な破壊を目の当たりにできる。この恐ろしいバランス感覚がbon iverを唯一無二にしているし、それを再現できる演奏力も恐ろしい。

 i,iというアルバムは、わたしとわたし、対話ですねということを聞くけれど、公演でもそうだったと思う。ひとりひとりが目の前で繰り広げられる演奏に没頭していた。正直、自分の周りがどうしてたとかがあまり分からなかった。でも、ライブが終わってみんなは満足していた。bon iverはみんなで歌おう!みたいな姿勢は見せない。けれど、観客がスマホを掲げてばかり・・みたいなこともない。そこには個人個人の集まりでありながら、集団を形成できる美しさが存在していた。人種も勿論多様だったけど、ひとりひとりがbon iverに向き合い、そして対話し、その対話が友人や家族との対話を生むのだろうか。「違う」ということに恐れをなして嫌ってしまったり、自分に居心地の良い環境だけを作ることが以前よりずっと簡単になったけれど、対話によってその壁を越えてゆくしかないという現実にもっと目を向けてもいいと再認識できた。

 世界は悪くなっていくと思ってしまうのは無理もないし、この日本も例に漏れずそうなのだろうけど、その絶望に浸っていくのではなく、もう少しだけ激しさを持った感情を持ってもいいのではないか。それは怒りや憎しみといったものではなく、「気づき」を生み起こすような感情。今回の公演はその激しさと、その激しさを暴力的にしない繊細さの両面で成り立っていて、こういう風に対話は行われるのではないかと感じた。世界は思ったよりも美しく、まだまだ良くしていける。