むめい

音楽、映画、小説、スポーツ、ノルウェーのこと、とか。

17 撮影、録音禁止!マルチ系の講演会に行った。

 私の友人の祖母がある商材にお熱であり、その企業は「今度我が社が行う講演会に人を何人か連れてくるとグッズをあげます」と言ったため、土曜の昼下がり、私の友人と私は召喚された。

無論、無料ではない。私は時給1000円で5時間の講演会を聞いていたのだ。(友人の祖母から給与は支払われる)仕事である以上ベストを尽くすというのは当たり前のことなので、私はほとんど寝ることなく講演会を聞き続けた。面白い体験もそれなりにあったが、やはり「しんどい」ものであった。

辛い体験ほど早く成仏させてやったほうがいいので、さっさと書くことにする。

 

商材について少し書くと容易に特定されうるため、そこに関しては、ぼやかして書きたい。少し詳らかにすると、最近流行りの〇〇水関連の商品である。

講演会のスケジュールはこのようなものだった。

最初の30分 司会の登場、会社の事業紹介、代表(詳しく忘れた。偉い人)の挨拶。

次の1時間 「研究員」の成果報告

次の2時間30分から3時間 〇〇水の原理、その効用に関する説明

最後 「最高顧問」のありがたいお話

といったものだ。どのシーンにも一つくらいツッコミどころがある素晴らしいものであった。私自身、自分のことを賢いとは思わないが、これが「贋物くさいな」と感じ取る嗅覚だけはあったらしい。こう書くと一部の方は「成功できない人」と思うかもしれないが、大いに結構。勝手に成功していてほしい。

「ツッコミどころ」があると先述したので、解説していきたい。

 

まず、司会

素晴らしい司会ぶりだった。特別ゲストで呼ばれた芸能人の方に前科が気がしたが、まあそれと今の活動は無関係だ。後から思えば、まともなのは司会だけであった。

 

事業紹介

私は学生であり、まだまだ社会経験に乏しい。そのため一般的な会社の事業説明を評論できないが、この説明は明らかにアウトであった。なぜなら、事業が三つしかないからだ。「電話応対業務」「応対内容の打ち込み業務」「発送業務」この三つだ。そもそも論だが、業務内容は事業ではない。事業説明と言われて期待することは、会社が今なにを目的にしており、それに対してどのような製品およびプロジェクトがあるか、ということではないか。私が就活中に回ったところはそういう事業説明をしてくれていた。そのため、この会社の事業は全く分からない。しかし聴衆は「お~」と言っていた。なにに納得したのか?

 

代表のお話

代表はいかに素晴らしいかを司会の方が説明し、代表がお話をする。ここで少し製品説明があった。しかし、これ以降製品がどういうソリューションになるか、というような話はない。謎だったのはその後だ。代表は使い古されたような人情噺をし、聴衆から大爆笑をかっさらう。何故皆が笑っているのかが分からなかった。枕で笑って落ちで笑わないのは何故。会場が温まったところで代表の歌が披露される。下手ではなかったが、事業に関係はなく私は混乱していた。当たり前だ。

 

「研究員」の成果報告

わざわざ「」を付けて「研究員」としている。そう、彼らは研究員ではなく、顧客なのだ。つまり、お客様の感想報告会だ。〇〇水を使って、糖尿病が治ったり、血管の病気が治ったり、皮膚病が治ったりしていた。私の親戚には医師が多いが、誰もこの話をしていなかった。こんな間近に解決案があるのに彼らはあまりに無頓着だ。もしかすると、だが、データにおいて効果が未確認なのかもしれない。この「研究員」に対して私は極めて複雑な感情を感じた。彼、彼女たちは本気で〇〇水に救われたと思っており、その効果を広めたいと感じている。一方、その「研究員」のバックに「何か」を感じてしまう。「研究員」は意志のない何かにも見えるが、「研究員」はたぶん本気である。ここまで来るともう後ろには下がれまい。

 

〇〇水の原理に関する説明

分からん。文系だからだろう。一応世間的に「OK」とされる大学にいるが(たぶん)、まっっったく分からなかった。かなり疲れた。ちなみに研究の経過的意味合いがあるとのことでここでの写真撮影などに関しては釘を再度刺された。

 

「最高顧問」のお話

ここでは一回しか〇〇水の話が出なかった。内容と言えば、「いかに戦後直後の人間が頑張ったか」「日本人はこんなにすごい」「英霊の魂を背負って生きている」「感謝を伝えよう」この四つくらいであった。

三時間弱の理論説明はこれの壮大な前振りだ。会場のほぼ全ての人間(主に高齢者)は現役大学生でも全く分からない理論を長時間聞き、かなりお疲れだ。そこに最高顧問の極めて分かりやすい話が入ってくる。そこになんと感動的なBGMまでついているのだ。(Time to say goodbyeやRoseなどが流れていました)ここまでハードルを下げられると誰でも飛び越えられる。逆にこける方が難しいだろう。

内容が「わかりやすい」と書いたが、まさにそうであろう。会場内の70~80の高齢者にとってドンピシャに刺さる内容だからだ。「古き良き礼儀正しく美しい日本」は世界に賞賛されている、と留学経験のある顧問が言う。そんな「私たち」は素晴らしい。ご先祖様日本を守ってくれてありがとう!みたいな。

私個人としてはあまり心地よいものではなかった。話のダシに戦争被害者を使うのも、留学経験を使うのも倫理的にどうなのか、と思ってしまう。戦争被害者になんらかの想いがあり、それに対して〇〇水を使って貢献していると思うのは構わないが、それが他の人種を下げたりするのに使えるわけではない。ともかく違和感だらけであった。

 

と、ここまでマルチ系講演会の体験談を書いてきました。あの講演会にいた高齢者たちは今どう思っているのかというよりも、私はあの講演会が自分の愛する人を救いたいという無垢な心で来た人をも根拠不十分な治療で魅了しているということに歯がゆさを感じました。決して否定されるべきでないものかもしれませんが・・・。